シリコンバレーでのスタートアップのエグジットというと、Facebookのように大成功してIPO、というルートを多くの人が思い浮かべると思います。しかしながら、シリコンバレーは成功するスタートアップは10に1つとも言われている世界です。成功しなかった残りの9のスタートアップはどのようにエグジットしているのでしょうか。その答えの1つがAcqui-Hire(雇用を目的とした企業買収)です。つい最近、私の友人のスタートアップがDropboxにAcqui-Hireされたので、それを例にお話します。
友人のスタートアップのAcqui-Hireの経緯
友人は3年前にモバイルニュース関連のアプリで起業。半年後に$1.5Mのシードファンディングを獲得し、エンジニア3人とマーケティング担当を雇う。1年後に本格的にサービスを開始。しかし、ユーザー獲得数が思うほど伸びず、投資家からのシリーズA調達に失敗。ビジネスモデルの確立もできず、資金がショートしかけた2年半後に、Google・Dropboxを含む複数の会社にM&Aを打診。その後、一番よい条件を提示してくれたDropboxとAcqui-Hireの契約を締結。エンジニアリングチームと一緒にDropboxに移り、Dropboxで新しいプロダクトの開発にあたる。
なぜ大企業はAcqui-Hireするのか
多くのスタートアップのチームは、非常に優秀で野心家なCEOとエンジニアにより構成されています。また、多くの時間をこれまで共にしてきているので、お互いのワークスタイルを熟知しているわけです。スタートアップのチームをAcqui-Hireする、すなわち丸ごと買収して雇うということは、企業にとっては、最初からエンジン全開でプロダクトを作り上げることができるチームを獲得するのと同義なのです。
Acui-Hireの相場
Acqui-Hireの相場ですが、少し前までは「(CEO+エンジニア)x $1M」というのが基準だったそうです。CEOにエンジニア3人のチームでは、$4M、すなわち5億円ほどになります。マーケティングやセールスなどの人材は、残念ながら企業にとっては喉から手が出るほど欲しい人材というわけではないので、金額算定に入らないことが多いようです。Acqui-Hireは、通常の買収とは異なり、買収金額が株式の保有割合通りに分配されるわけではありません。投資家は投資金額を回収する程度で、残りは雇用されるチームに重点的に配分されます。雇用されるチームは、3-5年間に渡って売却先の会社の株式という形で買収金額を受け取ります。3-5年かけて株式を分配するのは、Acqui-Hireしたチームがすぐに辞めてしまった、なんていうことにならないようにするためです。最近は、シードファンディングの出るスタートアップの乱立により、「(CEO+エンジニア)x $1M」の相場も下がり気味ではあるようですが、それでも、チーム側の取り分は、1人につき5年間で$300Kはくだらないようです。通常の給与に加え、株式で年間$60K(700万円)もらえるのは、成功しなかったスタートアップとしては悪くはないですよね。(通常の給与については、シリコンバレーのお給料事情をご覧ください)
シリコンバレーでは、Acqui-Hireのような成功しなかったスタートアップのセーフティーネットが充実しており、イノベーションを促進しています。Acqui-Hireは日本企業には馴染まないシステムかもしれませんが、皆さん、シリコンバレーの大企業のこの優秀な人材の獲得にかける熱意、どう思われますか。
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