スタートアップというと、とかくアイディアが重視されがちです。創業者の中には、自分のアイディアを盗まれたくないがために誰にも話さない人もいるくらいです。しかし、スタートアップは本当にアイディアが勝負なのでしょうか。
私は以前、とあるインキュベーションファンドにアイディアをピッチしたことがあるのですが、彼はこう言いました。「君の持っているアイディアは他の人から10回は聞いたことがある。重要なのは、アイディアではなくExecutionだ。君がどれだけうまくExecutionできるのかを聞かせてくれ」。
この言葉からわかるように、誰かが思いつくアイディアは、誰でも思いつきます。しかし、そのアイディアを最高の形でExecute(実行)することは、誰もができることではありません。最近ブームを巻き起こしている、Blue Apron/ Hello Freshなどの食材配達のスタートアップから、それを見てみましょう。
食材配達のスタートアップは、料理のPain pointを取り除くところから始まっています。料理をする人は、レシピのバラエティがなくてマンネリになりがち、かといって毎回違うレシピを選んで買い物にいくのが面倒、食材や調味料をレシピごとに全て揃えると高くつく、使い切れなかった食材を捨てなければいけない、などのPain pointを抱えています。そこで、Blue ApronやHello Freshなどのスタートアップは、2012年前後からレシピとそのレシピに必要な分量の食材の宅配サービスをはじめました。日本でいうKitOisixのようなサービスです。
Blue ApronやHello Freshがこのビジネスをはじめたとき、同様のコンセプトのスタートアップが20以上あったと言われています。Chef Day, Plated, Home Chef, Gobble, Peach Dishなどです。これらは皆、2011-2013年に創業していますが、これまでの調達額は大きな差が出ています。
Blue Apron | Hello Fresh | Plated | Home Chef | Gobble | Peach Dish | Chef Day | |
創業年 | 2012 | 2012 | 2012 | 2013 | 2011 | 2013 | 2012 |
調達額 | $193M | $193M | $21M | $1M | $1M | N/a | N/a |
同じコンセプトのスタートアップでありながら、なぜここまで大きな調達金額の差が出たのでしょうか。私はBlue Apronしか試したことがないのですが、試してすぐにBlue Apronのファンになったので、なぜBlue Apronが成功しているかは分かります。
<Blue Apron、料理するとこうなります!夏らしい仕上がりです。>
1.はじめるハードルが低い:最初の1週間は無料。その後の有料顧客化につなげる自信があるからこそできることです。
2.レシピがほどよい難度:どのレシピも30分ー1時間ほどで完成できて、難しすぎない。でも、毎回あたらしいことを学べる。Lemon Zest?何それ?というような馴染みのない調理方法もありますが、説明はレシピに載っています。
3.食材が旬で、質がよい:旬の野菜と季節感のあるレシピが送られてくる。肉や魚の質もいい。食材を作っている農家の紹介も同封されていて、トレーサビリティーにかなり気を使っている模様。
4.バラエティーに富んでいてあきない:有名シェフ・新進気鋭のシェフのレシピが満載とのこと。結構実験的なレシピがおおい。自分では絶対作らないような料理や食材(北アフリカ風チキンピタ、なまずのコーンミールクラストなど)が入っていて、たのしい。
5.おいしくて、ヘルシーで見た目にもきれい:何より重要なのが、おいしい!アメリカの食べ物は雑すぎると感じることが多い私ですが、Blue Apronのレシピはどれもかなり完成度が高い。栄養バランスや彩りにも気を使っていて、Blue Apronがあると、料理するのも食べるのも楽しみにる。
価格は1食$10です。Whole foodsで買い物をするような健康志向の高い人をターゲットにしているので、そんな人からすると納得の値段でしょう。Whole foodsで同じ食材を揃えたら、多分$10以上かかります。逆に、ターゲット外の人からすると、自分で料理するのに$10も出すなんて信じられない!それならテイクアウトの方がいい!と思うかもしれません。ターゲット市場だけを見据えて、その市場に向けてベストなExecution(実行)をしたのが、Blue Apronがここまで成長した理由なのでしょう。
シリコンバレーのスタートアップがどのようにして成功してきたのか、Blue Apronの他の例については、スタートアップが3年で生活インフラにまでなった例をご覧ください。
2 thoughts on “起業の勝負は、アイディアか実行か”