アメリカのスタートアップの資金調達と株式配分

以前のポストでは、自己資金の投資だけで成功したスタートアップ、Plenty of Fishの例を書きました。そうはいっても、若いアントレプレナーでは、自己資金だけでは3ヶ月ももたないというケースが大半でしょう。ここでは、シリコンバレーのスタートアップの典型的な資金調達の方法、そして資金調達のたびに株式配分がどう変わっていくのかを見ていきましょう。話を分かりやすくするために単純化していますので、実際の資金調達とは異なる部分もあるかと思います。

始めの一歩

2人の共同創業者が、とあるアイディアに基づいて起業しようと決め、プロダクトを作り始めました。この段階では、会社の価値はほぼゼロに等しく、そのゼロに等しい価値の会社の株式を、2人の創業者で50%ずつ所有していることになります。

初めての資金調達(シードラウンド)

2人の創業者は、プロダクトのプロトタイプを固め、自信を深めてこのスタートアップによりコミットすることを決めました。そこで、今後1年間、プロダクトの開発とローンチをするために$1Mの資金を調達しようとします。この段階では、会社の価値は非常に低い状況です。会社の価値が例えば$1Mだとすると、$1Mの資金調達をするには、$1Mを出してくれた投資家に50%の株式をあげなくてはいけません。$1M/($1M+$1M)=50%です。しかしながら、投資家が過半数の株式を持つと、創業者が経営コントロールを失うため、こんなことはできません。そもそも、初期のスタートアップの価値を正確に評価するのは困難で、やろうとすればコンサルティング会社や弁護士費用が大量にかかってしまいます。そこで、シリコンバレーでは、このような超初期のスタートアップの多くは、Convertible note(転換社債)を使って資金調達をします。これは、シードラウンドのうちは株式でなく社債という形で貸付をして、Series Aラウンドに進み会社の評価額が定まってきたときに株式に転換しましょう、というものです。

最近のシリコンバレーの傾向では、シードからSeries Aに進むまでの期間が長く、シードでの調達金額も大きくなる傾向にあります。多くのスタートアップは、シードラウンドで複数のエンジェル投資家からのConvertible noteでの調達を繰り返します。この段階では、まだ創業者が株式の大半を握っています。

Series Aでの資金調達

2人の会社では、プロダクトの開発もローンチも終わり、ユーザー数も日に日に伸びてきました。収益化のためのビジネスモデルもはっきりしてきました。そこで、ついにベンチャーキャピタルからSeries Aラウンドの資金調達をし、ビジネスを大幅に拡大していこうと決めました。ベンチャーキャピタルは、2人の会社を$10Mの価値があると評価し、$5Mの投資を決めました。会社の価値は$10M+$5M=$15Mになり、ベンチャーキャピタルは$5M/$15M=33%の株式を手にすることになります。また、この段階で、シードラウンドのエンジェル投資家達も、社債を株式に転換することになります。それでは、エンジェル投資家達は、$1M/$15M=7%の株式を手にするのでしょうか。いいえ、7%より多くの株式を手にすることになります。初期の投資家は、中期の投資家に比べて高いリスクをとっているので、多くのリターンを受けるわけです。エンジェル達がどれだけの株式を手にするかは、シードラウンドでの契約次第ですが、ここでは便宜的に10%の株式を手にするとしましょう。ベンチャーキャピタルが33%、エンジェルが10%、そして残りの57%を、共同創業者で分けることになります。

Series B以降での資金調達

Series B以降も、基本的にはSeries Aと同じルールで、評価額に対する投資額で株式の配分は決まっていきます。そして、資金調達を受けるたびに、創業者の株式の保有割合は減少していきます。

資金調達の注意点

以上のように、資金調達は繰り返すたびに創業者の株式の保有割合は減っていきます。ですので、特にスタートアップ初期の資本政策には万全の注意を払うべきです。例えば、シードラウンドでConvertible Noteを使わずに株式をエンジェル投資家に渡した場合、Series Aの調達には大幅な支障が出る可能性があります。経営のコントロールを確保するためにどの段階でどれだけ株式を渡すべきか、しっかりしたシミュレーションをしましょう。また、最近はSAFE(Simple agreement for future equity)という社債を使わないよりシンプルな方法も徐々に広まってきています。これらのオプションについては詳しく勉強し、中長期的な目線で資金政策をたてましょう。

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3 thoughts on “アメリカのスタートアップの資金調達と株式配分

  1. とても参考になりました。ありがとうございます。東京に住む、中井 純と申します。
    質問ですが、日本では転換社債は株式への転換価格を予め決めておくと聞いたのですが、USでは転換時のシェアなどを決めておいて、転換価格は決めなくても良いのでしょうか?
    また日本でも同じことができますか?
    エンジェル段階で創業時価格で株を渡してしまうと後が大変(創業者が経営権を握れない)なので、このスキームにはとても関心があります。
    よろしくお願い致します。中井 純

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    1. 中井さん、
      Convertible noteは、USではキャップとディスカウントを決めるのがスタンダードです。ディスカウントは20%前後、キャップはシード段階では$3M-$15M前後(中央値は$5Mとか$7Mとかでしょうか)であることが多いかと思います。
      便宜的に、キャップ$5M、ディスカウント20%の契約だとします。転換価格は、キャップもしくはディスカウントの低い方の額で行われます。
      シリーズAの価格が$10Mだったときは、20%ディスカウントで計算すると$8Mがシードラウンドの価格となりますが、これよりは$5Mの方が低いので、実際の転換価格は$5Mとなります。
      逆に、企業価値があまり伸びずにシリーズAの価格が$5Mだったときは、20%ディスカウントの$4Mが価格となります。
      この辺りは、企業のエクイティファイナンスに詳しいので、是非読んでみることをお勧めします!日本でもConvertible noteやConvertible equityは使われるようになってきてはいますが、まだまだエンジェルラウンドは普通株のことが多いですね。

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  2. 石川さん、早速のお返事誠に有難うございます。
    とても参考になったのですが、転換社債の最初の投資額(融資額)が良く分かりませんでした。
    文中の例を取りますと「キャップ$5M、ディスカウント20%の契約だとします。転換価格は、キャップもしくはディスカウントの低い方の額で行われます。
    シリーズAの価格が$10Mだったときは、20%ディスカウントで計算すると$8Mがシードラウンドの価格となりますが、これよりは$5Mの方が低いので、実際の転換価格は$5Mとなります。」

    質問です;
    1.契約時の融資額はいくらなのでしょうか?
    2.その融資額は利息をつけて返済するわけですね?もしくは株式に変わるので返済の必要はないのでしょうか?
    3.実際の転換価格は、$5Mということは、シリーズAでは、第三者割当で、$10M調達、例えばそのシェアが20%としたら、時価総額は、$50Mですね。そこに同じ株価で$5M相当入れることになるので、転換社債のオーナーは、5/105=0.476(4.76%)のシェアを持つことになるのでしょうか?
    4.このときには、資本金は増えずに株式だけが発行されるのでしょうか?

    5.「企業のエクイティファイナンスに詳しい」とのことですが、石川さんのブログでしょうか?見つかりませんでしたがURLを教えて頂けますでしょうか?
    それとも、検索すればすぐ見つかる類のものでしょうか?

    厚かましく質問ばかりしておりますが、何とぞよろしくお願い致します。中井 純

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